物語−グレー

「誰も居ない世界に行きたい」

目が覚めると、自分しか居なくなっていた。まずは「自分しか居ない」という現実を認識するのに数時間を要した。 が、それでも完全に受け止めるには至らない。理由は後記する。そして、それを認識すると丸1日経たない内に孤独感に襲われる。 日が落ちなけれ…

純粋

満天の星空を奪い、替わりに無数の輝きを地上に撒いて「ああ感動的な光景だ」と語る 彼はそういう人物ではなかった 幾人もの命を焼き殺した大きな炎を見て「なんと幻想的な光景だ」と唸る 彼はそういう人間だったのだ 皆は彼に石を投げつけた黙って感動を噛…

犯罪者は命を救う

皮膚50平方cmの刑、胃3分の2の刑。 角膜一つの刑、腎臓一つの刑、腕1本の刑。 更に重い刑になると生きられる範囲で複数のパーツを、そして死刑の代わりに全ての臓器や皮膚、血液、骨髄を取り上げられる。 もちろんそれらはあらゆる臓器バンクの団体に…

大人の世界

理不尽を押し付けられて不条理を知ってそれが大人だ、なんて正当化するから子供は大人を馬鹿にする そんな子供も大きくなり両手で顔を叩き、呟く「さぁ、俺も理不尽を受け入れるか」不条理の世界に足を踏み入れると大人達が複雑そうな笑顔をこちらに向けた

逆さの写真

上下を逆に構えたカメラで撮った写真を他人に見せると 必ず上下を逆にして見ようとします。 そうやって人の目に映った世界は何回転してきたんでしょうか? もうこの世界がどの向きから見たものなのかなんて誰も覚えていません。

敵の多い男

彼は物心ついた時から敵の多い男だった彼は自分に敵が多い事を嘆いているようだった 誰しも彼の味方になる可能性を秘めているのだから仮に彼に敵が多いとしてそれは彼の責任であるはずのだがどうやら彼は自分の置かれた状況を悲観視する事しかできないらしい…

怖いもののない男

ある小さな村に怖いもののない男が住んでいました怖いもののない男には何ひとつ怖いものがありませんでした「この山をこえた先の大きな街にならきっと僕の怖いものがあるはずだ」怖いもののない男は小さなリュックを背負い小さな村を出発しましたやっとのこ…

親殺し

「なぁ、守衛さんよ」「・・・死刑が決定した者は犬以下の身分だ。人間に話しかけるのは御法度だぞ?」「そいじゃこれはオラの独り言だ気にしねぇでおくれ」「ああ、独り言なら存分に喋べりゃ良いさ」「オラのおっかぁはオラが子供の頃からずっと言ってただ…

弔い屋の友人

私の友人は死人を弔う事を生業としていた 彼は人間の本質を嫌という程に見てきた 彼はある日、自身の命を絶ったのだ彼の口癖を良く覚えている「肉は虫に喰われ、骨が風に削られようとも、人は人の心に残る」私は彼の墓の前で呟いた「人の心に残って満足なら…

狼と魚

あるところに仲の良い狼と魚がいましたある日、狼が海の近くを通りかかると羨ましそうに陸を見つめる魚が見えました海の中で生きる魚を可哀相に思った狼は魚を陸に引っ張り上げてあげました魚は急いで海に戻りこう言い放ちます「余計な事をして迷惑をかけな…

砂の降る街

この街が薄暗いのは 降りしきる砂が太陽を遮るから 空は冷たく大地は乾いたその街にも 毎年花咲く植物も 子を産み育てる動物も生きている それでも砂の降る街は まるでの全ての生命を嫌うように 今日も人々の足跡をゆっくり消し去ってゆく

腕のない男の話

生まれつき両腕がなかった僕は目が見えない女性と出会った。 僕はこの人を支えてあげたいと思った。でも。ある日小さな石につまづいて目の前で無惨に転ぶ彼女を、抱き止めてやる事も抱え起こしてやる事も出来なくて。ふと涙が止まらなくなったけれど、それを…

私が一番カッコワルイ・・・

ある公園の噴水の前には決まった時間、初老のオジサンが歌を歌っていた。 酷く音痴で、しかし誰かに届けと言わんばかりに優しい大声で歌っていた。 ご近所からは変人扱いされていたそのオジサンの歌を、私は密かに好きだった。ある日、派手目の友人とその公…