「誰も居ない世界に行きたい」

目が覚めると、自分しか居なくなっていた。

まずは「自分しか居ない」という現実を認識するのに数時間を要した。
が、それでも完全に受け止めるには至らない。理由は後記する。

そして、それを認識すると丸1日経たない内に孤独感に襲われる。
日が落ちなければ寝る事も、飯を食う事さえ忘れてしまいそうな強烈なものだ。
これは「寂しい」とかそんな甘ったるいものではない。
きっと種の存続の危機における生物としての本能なのだろう。

毎日異性を捜し彷徨う。
こんな状況に陥ったら「とにかく他人が恋しい」気持ちになると思っていたが、異性の事しか考えられない。
人恋しいなんて気持ちになったのは、他人を見付けるのを諦め始めてようやくだ。


それはともかく、まともな思考が戻ると同時に現状への疑問が湧いてくる。

1.何故他の者が居なくなったか
2.何故自分は残されたのか
3.本当に自分しか居ないのか
等である。

1.2.については幾ら考えてみた所で答えが出る筈も無い。
正解を確かめようが無いから予想の範疇を越える事がない


だが問題は「3.本当に自分しか居ないのか」、言い換えるなら「本当は周りに他人がいるんじゃないか?」という懐疑だ。

もし自分の脳に欠陥が出来、自分以外の個を認識できないのだとしたら、、、
また、自分以外の全員がこちらから認識できないように巧妙に姿を消しているのだとしたら、、、

こんな事を考え始めると疑心暗鬼であっという間にノイローゼだ。
先ほど「自分しか居ないという現実を完全に受け止めるには至らない」と書いたのはこの為である。

私は誰も居ない世界で他人の影に怯えきって衰弱してゆく。
気が付くと何の前触れも無く癇癪を起こし「本当は皆居るんだろぉおおおおおおおおおおッ!?」などと叫んで暴れ回っていたりする。
死ぬ間際には「誰も居ない世界に行きたい」とか訳の分からない事を呟きながら泣いているかもしれない。

おわり。