怖いもののない男

ある小さな村に怖いもののない男が住んでいました

怖いもののない男には何ひとつ怖いものがありませんでした

「この山をこえた先の大きな街にならきっと僕の怖いものがあるはずだ」

怖いもののない男は小さなリュックを背負い小さな村を出発しました

やっとのことで怖いもののない男は街までたどり着きました

怖いもののない男が宿を探していると庭に怖がりの女がいました

怖がりの女はかわいいお花のつぼみを見つけると

「せっかく咲くお花がいつか枯れてしまうのは怖いよ、怖いよ」

そう言ってわんわんと泣き出してしまいました

怖いもののない男は怖がりの女に声をかけました

「これはポテトの花だから咲いたらすぐに摘んでしまうんだよ」

すると怖がりの女は泣き崩れながら言います

「どうしてそんな怖い事を言うの・・・? あなた怖いわ」

怖いもののない男はやさしく手をさし出しながら

「そんな事言ったって・・・君もポテトは食べるだろ?」

しかし怖がりの女の目には拳を振り上げてるように怖く映ります

怖がりの女の耳には自分を追い詰めるように怖く聞こえます

怖いもののない男は宿をとらずにその街をあとにしました

怖いもののない男は怖がりの女の事を怖いと思いませんでした

怖いもののない男は人に怖がられる事を怖いと思いませんでした

ただ、怖いものがない自分を少しだけ怖いと思いましたが

その気持ちも次の街に向かう内にすぐに消えてしまいます

彼は今も旅を続けていますが相変わらず怖いもののない男でした