腕のない男の話
生まれつき両腕がなかった僕は目が見えない女性と出会った。
僕はこの人を支えてあげたいと思った。でも。
ある日小さな石につまづいて目の前で無惨に転ぶ彼女を、抱き止めてやる事も抱え起こしてやる事も出来なくて。
ふと涙が止まらなくなったけれど、それを拭う事も出来なくて。
僕が、僕たちが不完全だと強く感じた。
またある日、彼女が光を失った理由を話してくれた。
僕はそれを聞いて、最初から不完全なのは僕だけだったんだと感じた。
悲しいプライドで、ちっぽけな裏切りで、凄く馬鹿だと思うけれど。
僕はまた一人で生きようと思って、彼女から逃げ出した。
でも、彼女は僕を探してくれた。
見えない目で必死になって見つけてくれた。
僕はまた泣いてしまったのだけれど、今度は彼女が拭ってくれた。
君を家まで送り届けて、その帰り道にひそかに誓った。
僕は君を支えてあげられない、でも君に幸せを見せてあげたい。
僕は・・・がんばるよ。がんばるんだ。