視血病

彼は半年ほど前から精神、および脳の病にかかっていた。
それは何とも奇怪なもので、自身が傷つけたものはそれが生物でなくとも血を流して見える、というものであった。
棚からグラスを落とせばガラスの破片と共に血が飛び散り、ジャガイモの皮を剥けば両手は血に染まる。
それだけではない、口に運んだものは一度噛み締める度に鏡越しに見る自分は口から血を噴き出すのである。
最初の内はメイドを雇い、家の事を全て任して食事も目を瞑って食べていたのだが、1ヶ月を過ぎる頃には症状も悪化し、口の中に血の味が広がるようになった。
それでも彼はその後2ヶ月もの間、血の味に耐えて食事を取って生き長らえたが、とうとう罪悪感に耐えられなくなり一切の固形食を取らなくなってしまった。
それから3ヶ月が経ち、流動食と点滴を続けた彼だったが身体と精神は衰弱し、とうとう自身の住む家の屋根から飛び降り、自殺してしまった。
彼の死体からは一滴の血も流れていなかった。