アリとキリギリス

あるところにアリとキリギリスが住んでいました

アリ達は毎日せっせと働き、その横でキリギリスは働きもせず歌を歌います


ある日キリギリスはニヤついた笑顔で一匹のアリに訊ねます

「なぁアリさんや、君達はどうしてそんなに必死に働くんだい?」

アリはその笑顔に少しムッとしながらも答えます

「食料が豊富な夏の間に働いて冬に備えて蓄えているんだ」

キリギリスは小さくふぅん、そうかいと呟くと少し間を置いてこう言います

「でも少し働き過ぎじゃないかい?たまにはこっちにきて一緒に歌おうじゃないか」

アリはその申し出を断るとそそくさと仕事に戻ります

キリギリスはニヤついた顔でそれを見送りました


やがて秋が過ぎ、冬が訪れます

アリ達は夏の間蓄えた食糧で何不自由なく冬を過ごしました



そして春、皆がせっせと働く中で一匹のアリは物思いにふけっていました

夏にキリギリスに声をかけられたあのアリです


アリは秋にキリギリスと話した事を思い出していました

夏の間全く働いていなかったキリギリスを思って食料を巣から持ち出しキリギリスの元へ向かったのです

キリギリスはいつも通りのニヤついた顔でアリを迎えました


「やぁ、君はあの時の。今日はどうしたんだい?」

「夏の間働いてなかった君に食料を分けてあげようと思ってね」

「どうして俺なんかに?施しを受ける理由がないよ」

「僕は君の歌が好きでね、随分元気付けられたからそのお礼さ」

「そいつは嬉しいね!だがそれは君達で食べてくれ」

「でも冬を越すのに困ってるんじゃないのかい?」

「俺達キリギリスは初秋に卵を残して遅くても盛秋には寿命を迎えるのさ」


アリは少し押し黙った後、強い口調で言います

「だが僕の気持ちなんだ、せめて死ぬ前くらい腹一杯でいてくれ」

キリギリスはニヤついた笑顔でハハハッと笑います

「それじゃあ折角だから頂戴しようかな?」

キリギリスは続けます

「でもその代わりに俺の最後の歌を聞いていっておくれよ」



別れ際、アリは涙目になるのを誤魔化すように皮肉を吐きました

「やっぱり君の歌は最高だがそのニヤついた笑顔は何とかしてくれよ」

キリギリスはそれに気付き、少し顔を背けながらもニヤついて答えます

「俺の笑顔は生まれつきこうなんだ、仕方ないだろ」



アリは仲間の呼びかけにふと我に返ると少しだけ歌を口ずさんでみました

キリギリスの歌っていたあの曲ですが、アリには到底歌えそうにありません

アリは仕事に戻るため仲間の元に駆け寄りました