励まし屋

はいいらっしゃい。っとどうしたんだい、眉間の渓谷に小さな村でもできるんじゃねぇかって顔してさ。
何々、つらい思い出がいつまでも頭ん中に残る。うんうん分かるよ。こんな店なんで同じような人が結構尋ねてくるもんでね、使い古した話なんだけどまぁ聞いてやってくれ。

どうも記憶の残り方というのは2種類あって人間の性質によって分かれるらしいね。
”楽しい思い出が残る”場合と”つらい思い出が残る”場合だそうだ。
楽しい思い出が残る奴ぁ良いね。いつ出会ってもニコニコと何も考えてないって顔してやがる。
こっちも思わず笑顔になっちまうってもんだ。
つらい悪い思い出が残る奴ってのは、これ、どうもジメジメしてていけねぇ。
口を開けば前に聞いたような愚痴をこぼしやがる。その上、楽しい思い出が残る奴には「あんたは良いねぇ、悩み事なんて何もないって顔してるよ」なんて文句まで垂れる始末。
おっと失礼。励まされに来てくれた人を貶してたんじゃ商売にならねぇや。

それじゃあそろそろ本題。もしあなたがつらい思い出を忘れられないって言うならそれは「つらい思い出が絶対悪い記憶だ」って訳じゃないんだよ。
あなたの記憶につらい思い出しか残らないのは、そりゃああなたがつらい思い出を必要とする人間だからだ。
必要なものは無くならないってまぁこれが真理だからね。まぁ聞きな。
そういう人はね、過去のつらい経験を繰り返さないようにつらい思い出を忘れないようにしてるんだな。
それが気に食わねぇなら人格でも取り換えるしかないさね。
「あたしったらつらい記憶がいつまで経っても消えないの」なんて言ってもそれが身を守る為だってんなら脳みそも消しちゃくれないよ。悩むだけ無駄だね。
一度”つらい思い出が自分の身を守ってくれてる”って考えてみなよ。きっとそれが”悪い記憶”だなんて気持ちもちったぁマシになるからよ。

はいそれじゃあこの話はこの辺でお開き。
お代はそこの籠に、気持ちで結構。元気でな、できればもう来ねぇでくんなよ。