小さな親切小さなお世話

昼過ぎの電車に腰の曲がったばあさんが乗り込んできた

私が声をかけるよりも先に金髪にピアスの兄ちゃんが立ち上がる

「ばあさん!ここ!」

ばあさんは遠慮していたようだったが

兄ちゃんは黙ってドアの横にもたれかかった

ばあさんはぺこっと頭を下げ空いた席に座る

そのまま何駅か過ぎてばあさんが立ち上がった

「兄ちゃん、このチョコ食いな」

「俺甘いもん食わねぇんだよ」

「じゃあこっちだ」

ばあさんは見たことない銘柄の煙草を押し付けて降りていった

次の駅に着くまでの間、兄ちゃんは煙草の箱を見つめていたが

私がずっと見ていた事に気付いていたんだろう

私の方に近づいてきて煙草を差し出しながら

「俺煙草やらねぇんだ。あんた吸ってくれ」

私が煙草を受け取るとその足で電車を降りていった

辺りを見回すとこちらを見ていた人がサッと目を背ける

私は煙草を胸のポケットにしまった

しかし私も煙草は吸わない