おいしそうな女


ある飲み屋でおいしそうな女が酒を飲んでいると、男が横へ座り話し掛けてきました。
男は言いました。
「アナタは美しい女性ですね。食べてしまいたい位だ。」
女は、また私を食べようという男が現れたわ・・・どうして私はこんな体に生まれたのかしら。と言いました。
男は言いました。
「確かにアナタは食べてしまいたい位に綺麗だ。しかしアナタの言葉にはそれは以外の意味をふくんでいるように思う。どうか聞かせては貰えないか?」
すると女は上着の首を少しずらし肩を見せました。
なるほど、おいしそうな肩に痛々しい歯形がついています。


女は静かに話し始めました。


女が初めに出会った男は拒食症の男でした。
拒食症の男は言いました。
「僕は拒食症なんだ。もう何年も食事を取るのが苦痛で堪らないんだ。だから君の事を決して食べたくはならない。」
ところが男は、女が上着を脱いだ瞬間、その肩に噛み付きました。
女の肩は拒食症でも思わず噛み付いてしまう程おいしそうだったのです。


女があまりの痛さに男を突き飛ばすと、やせ細った男は簡単に離れました。
女は急いで上着を着て、一目散に逃げました。


女は続けて話しました。


女が次に出会ったのは盲目の男でした。
盲目の男は言いました。
「俺は目が見えないんだ。貴女がいくらおいしそうな体をしていても見えやしない。だから貴女の事を決して食べたくはならない。」
ところが男は女の足に顔を寄せると、突然その足に噛み付いてきました。
女の体は思わず噛み付いてしまう程おいしそうな匂いだったのです。


女は自分の足から男を引き剥がし、盲目の男を部屋に残して逃げ出しました。
その時の傷だ。と、女はスカートを少しめくりました。
おいしそうな足には包帯が巻かれていました。


男は言いました。
「貴女がどれ程おいしそうかは分かりました。しかし私にアナタは食えませんよ。」
女は、もし貴方に食べられたとしても本望ですよ。と言いました。
男は言いました。
「では試してみましょうか?」
女は、では試してみましょう。と言いました。


女が裸になると左の乳房が喰いちぎられていました。
女は、これも男にやられたのだ、と言いました。


女は最後にもう一度話しました。


女が出会ったのは世界一グルメな男でした。
グルメな男は言いました。
「わしは世界一グルメな男だ。世界中のありとあらゆる旨いものを散々喰い尽くしてきたんだ。だからわしはお前を決して食べたくならない。」
ところがグルメな男は女を羽交い締めにし、左の乳房に噛み付いてきました。
女の左の乳房は、世界中のありとあらゆる旨いものよりおいしそうだったのです。


女は命辛々逃げ出して、自分の体を愁いで酒を煽っていたのだと証しました。


男は、涙を流して話す女を抱き寄せて口付けをしました。
女はハッとして、私がおいしそうでないのか尋ねました。
男は言いました。
「確かにおいしそうだ。しかし私は生まれてこの方肉を喰った事がない。肉の旨さを知らないベジタリアンなのだ。」