汚い声のオヤジと青年

高速道路の高架下 汚いオヤジが唄うたう
酒と煙草で潰れたような 汚い声で唄うたう
人々が足早に通り過ぎていく中
一人の青年はオヤジの前に座った
暫らく耳を傾けて 涙を流してこう言った
「苦労を知ってるいい声だ、世の中を見てきたいい唄だ」
青年はオヤジの横に座りギターを弾いた
汚い唄に下手なギターが合わさって 段々人が集まりだした
年寄りから若者まで その唄に耳を傾けた
ある日青年は一人でギターを弾いた
また次の日も青年は一人でギターを弾いた
汚いオヤジは汚い病院のベッドの上 楽しかったと唄うたう
より一層汚くなった声で 幸せだったと唄うたう
ある日 青年は一人でギターを弾いた
また次の日も青年は一人でギターを弾いた
「自分にはあんなにもいい声が出せるのだろうか」
青年は綺麗なままの声を嗄らせて必死で唄った