男と乞食の10円論争
その日も男はいつもと同じ自動販売機でいつもと同じ銘柄の煙草を買う
500円玉が切れていたようで小銭が大量に出てきて男は少しムッとする
小銭を乱暴に鷲掴みにして財布に入れようとするがその際10円玉を落っことした
するとチャリンと音がするとほぼ同時に一人の乞食が飛び出してきたのだ
その乞食は10円玉をすばやく拾い上げるとこう言う
「これは俺が拾ったのだから俺のものですよ!」
男は眉間にしわを寄せながら少し考えてこう返す
「よし、そう言うならばその10円はお前に恵んでやる」
乞食は礼を言って立ち去ろうとしたが男は嫌みったらしくこう続けた
「しかし私の手の中には10円玉の他に50円玉が1枚、100円玉が6枚も入っていた。10円玉よりも小さい50円玉や100円玉が手からこぼれ落ちていたらお前はその何倍もの金が手に入ったのにな」
乞食はくやしい気持ちを抑え、大げさに喜んでみせた
「50円や100円なら旦那も返せとムキになったかもしれない、でも旦那は嫌味ったらしい事を言いながらもこの10円を恵んで下さったじゃないですか。これはラッキーですよ」
男は一瞬呆気にとられたが乞食の態度がおかしくなりクスクス笑い始める
「なかなか頭の回るやつだ。面白い体験をさせてもらった、少ないが取っておけ」
そう言うと財布に仕舞い損ねていた350円を乞食の手の平に落とした
男はそのまま立ち去ろうとしたが背後から呼び止める声がする
「旦那!」
「なんだ、まだ何か用か?」
「煙草、忘れてますよ」
乞食は受け取り口から煙草を取るとポンと投げてよこした