息子が犬を飼う

中学生になった息子が子犬を拾ってきた。
私が元の場所に戻してくるように言うと、「飼わせてくれないと家出する!」と、ギャアギャア泣いて訴える。
どうしても譲らないようなので、全て自分で面倒みるなら、と言う条件で許可する。
息子はすぐさま泣き止んで「ありがとう!」と微笑んだ。


息子は小遣いをはたいて犬の餌と首輪、散歩のロープを買ってくると子犬に名前を付けて庭につないだ。

しばらくは散歩も毎日のように連れて行き、餌代も家の手伝いをして小遣いを貰って何とかしていたようだが、それも3ヶ月を過ぎる頃には餌の回数が一日一度になり、散歩にも連れて行かなくなった。
私が犬の面倒をみているのか聞くと「ちゃんと見てるよー」と返事を返す。


それから更に1ヶ月ほど経ったある日、私は息子を庭に呼び出した。
庭の隅にはガリガリに痩せ細った犬が虫の息で横たわっていた。

息子は犬をタオルに包むと震える手で必死に水を飲ませた。
目も開かず口からは水を溢す、そんな弱々しい愛犬の姿に息子は目を腫らして泣いた。


次の日、犬が息を引き取ると息子は私と目を合わせないまま小さな声で「できない事言ってごめんなさい・・・」と言った。
犬に言ったのか私に言ったのかは分からなかったが、私は息子の肩にポンと手を乗せるとこう言った。

「葬式の手続きと代金は貸しにしといてやろう。これから半年間は小遣い無しだ。」